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Topics 003
上高地特別天然記念物地域の長期モニタリング

地質概説なぜ上高地は山岳景勝地になったか?空中写真にみる網状流の経年変化地形画像診断

 上高地の地質概説

上高地地質図(原山,2015)産総研地質図・防災科研地すべり地形分布図
:横尾,:徳沢,:ウェストン碑)
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ウェストン碑
 上高地は北アルプス穂高連峰の麓に位置する有名な景勝地です。「日本近代登山の父」と言われる英国人宣教師​Walter Westonがその著書『日本アルプス登山と探検』で上高地や槍・穂高を絶賛、世界に紹介しました。今では特別名勝・特別天然記念物に指定されています。
 上高地は地質でも有名です。Harayama(1992)によって滝谷花崗閃緑岩が第四紀の花崗岩(1.9~0.8Ma)だとされたからです。花崗岩は地下数kmもの深部でゆっくり形成された深成岩ですから、それが現在標高約3000mのところに存在していることは、日本列島の隆起速度が如何に速いかを示しています。ウエストン碑のレリーフが埋め込まれた巨岩はまさにこの世界一若い花崗岩・滝谷花崗閃緑岩です。なお、その後、Ito et.al. (2013)は、黒部川ダムの北、仙人谷ダム付近に露出している黒部川花崗岩の年代を測定、もっと若い1.0~0.8Maとしましたので、世界一の座は変わりました。
 上高地の基盤はジュラ紀付加体である美濃帯の砂岩・泥岩・チャートなどからなります。その上を前期更新世の穂高安山岩類(槍・穂高カルデラ埋積火山岩類:主体はデイサイト質溶結凝灰岩)が覆い、さらに滝谷花崗閃緑岩が貫いています。上述のように、この花崗岩の急速な貫入に伴って周辺の基盤岩類も急激に隆起し、激しい浸食を受けます。巨大崩壊や地すべりが多発したことでしょう。この崩壊土砂により梓川は埋め立てられたり天然ダム(古上高地湖)のような状態になりました。これが幅広い谷底平野を形成し、現在のような景観を生み出す原因になりました。現在でも右の防災科研地すべり地形分布図に見るように、巨大な地すべりや扇状地が発達しています。最後に南部では活火山焼岳が活動しました。大正池は1915年焼岳の噴出物が梓川を遮ったために形成された天然ダムです。
<注> Ma:100万年前、Ka:1000年前の意。

 なぜ上高地は山岳景勝地になったか?

古上高地湖(原山,2015)古上高地湖堆積物(原山,2014)
天然ダム群(原口原図:背景はGoogle Earth)
広い河原と渓床林
 日本列島は南北に狭長で、しかも急峻な地形をしています。そのため、日本の川は、明治のお雇い外国人Johannis de Rijkeが「川ではなく滝だ!」と言ったとの説があるくらい急流で、山岳部ではV字谷が一般です。その中で上高地は極めて異質で、広い平坦な谷底平野を網状流が流れ(河床勾配8‰、幅600-900m)、ケショウヤナギのような低木渓床林が発達しています。水も清冽です。どうしてこのような地形ができたのでしょう。
 上述のように、世界一若い花崗岩が急速に隆起しました。この隆起活動は現在も続いており、西村(2013)によれば、一等三角点「穂高岳」において1999,2005,2008年に実施したGNSS繰り返し観測により、前穂高岳が年間約 5mm で隆起していることが判明したそうです。「出る釘は打たれる」の理で、さまざまな造地形運動が展開しました。原山(2015)は大正池湖畔において実施した学術ボーリングに基づき、次のような地形発達史を述べています。
 少なくとも12.4Ka以前には、古梓川は標高1200m地点を西の岐阜県平湯方面に向かって流下していました。12.4Ka第一次堰き止めにより「古上高地湖」が形成され、7Ka頃まで5000年程度存続しました。この堰き止めは焼岳火山群の白谷山とアカンダナ山の火山活動によるものと推定されています(及川,2002)。7Ka頃第一次堰止め湖が消滅したのは、7.7-6.7cal Kaに境峠断層が活動したことにより決壊したのだろうと言われています(吉岡ほか,2005)。4Ka頃、下堀沢溶岩により第二次堰き止めが発生します。さらに江戸時代後期にも第三次堰き止めがありましたし、最後は焼岳の大正噴火による大正池の出現があります。
 さて、現状はどうでしょうか。大正池は東京電力の電源水源として利用されています。そのため、上流では堆砂が、下流では河床洗掘が発生しています。堆砂は側方からの土砂供給量の多いところ、下流に狭窄部のあるところなど、いくつかに分散しているようです。

 空中写真にみる網状流の経年変化

大正池誕生(左:大正元年「燒嶽」,右:昭和5年「上高地」)上高地今昔マップ(左:昭和5年地形図,右:現在の地形図)網状流の経年変化(左:1977年,右:2017年)
1977年オルソ空中写真 2014年オルソ空中写真 2015年オルソ空中写真 2016年オルソ空中写真 2017年オルソ空中写真
1947年米軍空中写真 1948年米軍空中写真 1955年米軍空中写真 1973年空中写真 2000年空中写真

 地形画像診断

≪地形診断マップの使い方≫
 地形画像診断は各種地形情報を勘案して行います。下記オーバーレイの中から必要な情報にチェックを入れて重ね合わせます。上にあるほうが優先されますから、右横の両矢印(up/down)をドラグして順序を入れ替えてください。透明度は横バーで自由に変えられます。回転・傾動もできます。
(Shift+drag:回転・ズーム、:正常方向復帰、alt+drag:傾動、:全画面表示、Esc:復帰、:著作権・凡例表示、:地図選択)

参考文献
  1. 中部山岳国立公園上高地連絡協議会(2014), 上高地ビジョン 2014~協働型管理による、世界最高水準の山岳公園づくり ~. 環境省, 40pp.
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  3. 原山 智(1990), 地域地質研究報告5万分の1地質図幅「上高地」. 地質調査所, 176pp.
  4. Harayama, S.(1992), Youngest exposed granitoid pluton on Earth: Cooling and rapid uplift of the Pliocene-Quaternary Takidani Granodiorite in the Japan Alps, central Japan. Geology, Vol.20, No.7, p.657-660.
  5. 原山 智(2014), 北アルプスを作った大噴火―槍穂高カルデラとは. 科学, Vol.84, No.1, p.69-73.
  6. 原山 智(2015), 上高地盆地の地形形成史と第四紀槍穂高カルデラ-滝谷花崗閃緑岩コンプレックス. 地質学雑誌, Vol.121, No.10, p.373-389.
  7. Ito, H., Yamada, R., Tamura, A., Arai, S., Horie, K. & Hokada, T.(2013), Earth's youngest exposed granite and its tectonic implications: the 10–0.8 Ma Kurobegawa Granite. Nature Sci. Rep., Vol.3, No.1306, https://doi.org/10.1038/srep01306.
  8. 上高地自然史研究会(1996), 上高地梓川の河床地形変化と河辺林の動態に関する研究. 上高地自然史研究会研究成果報告書, No.2, 63pp.
  9. 上高地自然史研究会(1997), 上高地梓川の河辺植物群落の動態に関する研究. 上高地自然史研究会研究成果報告書, No.3, 37pp.
  10. 上高地自然史研究会(1998), 上高地梓川の地形変化,土砂移動,水環境と植生の動態に関する研究. 上高地自然史研究会研究成果報告書, No.4, 93pp.
  11. 上高地自然史研究会(1999), 上高地における地形形成と地下水流動,植生動態に関する研究. 上高地自然史研究会研究成果報告書, No.5, 58pp.
  12. 上高地自然史研究会(2001), 上高地における地形変化と植生動態に関する流域生態学的研究. 上高地自然史研究会研究成果報告書, No.6, 91pp.
  13. 上高地自然史研究会(2002), 上高地梓川における流域生態系の構造と変動に関する研究. 上高地自然史研究会研究成果報告書, No.7, 56pp.
  14. 上高地自然史研究会(2003), 上高地梓川の河畔域における地形変化と植生動態に関する研究. 上高地自然史研究会研究成果報告書, No.8, 42pp.
  15. 上高地自然史研究会(2004), 上高地および周辺地域における地形・植生動態、昆虫相と環境変動. 上高地自然史研究会研究成果報告書, No.9, 45pp.
  16. 上高地自然史研究会(2006), 上高地および周辺山地の地形変化と植生構造に関する研究. 上高地自然史研究会研究成果報告書, No.10, 42pp.
  17. 上高地自然史研究会(2009), 上高地梓川における植生と地形およびその保全・管理に関する研究. 上高地自然史研究会研究成果報告書, No.11, 72pp.
  18. 上高地自然史研究会(2010), 上高地における河畔植生の動態と地形変化に関する研究. 上高地自然史研究会研究成果報告書, No.12, 82pp.
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参考サイト

初出日:2021/06/13
更新日:2021/09/22